(2)専門的構成員のプライドを認め、技術の暗黙知を吸い上げる教育訓練と人事政策
組織における人事政策上、大きな分岐点となるのは、管理職層への登用時期です。どのような組織であれ、その組織・部門をマネジメントする管理職の存在は不可欠です。管理職にはすべての人がなれるわけではありません。それゆえ、組織全体が納得できる人事が行われることが理想ですが、なかなかうまくはいきません。近年、日本型経営の特徴の一つであった年功序列型から、成果主義・能力主義の人事制度を導入する企業が増え、この問題は新たな局面をむかえているといってもよいでしょう。
どのような人事制度であるにせよ、組織力を向上させていくためには、忘れてはならない点が最低二つあります。一つは、管理職層へ選抜されなかった構成員の処遇です。とくに、現業のベテランなど技術的に優れている場合には、彼らのモチベーションを下げることは組織にとって百害あって一理なしです。もう一つは、彼らのスキルを正確に評価し、次代に承継することです。彼らのスキルは、単純にマニュアル化できるものばかりではありません。長年その業務に従事することにより獲得した知識や人脈や手法などを、承継可能な情報へと変換させなければ、スキルは流出してしまいます。この二つを実施するための人事政策上の仕掛けが重要となります。
@非管理職層のモチベーション維持・向上
V.ブルームによって提唱され、L.ポーターとE.ローラーにより発展された「期待理論」では、モチベーションについて、「人が働く動機の強度は、努力により達成される結果についての期待と、結果の優位性により規定される。優位性とは、ある行為により得られる結果の効用ないしは価値である」、と規定しています。
皆が皆、この理論にあてはまるわけではないでしょうけれども、管理職層に選抜されなかったものにとっては、少なくとも、努力により達成される結果については、期待できないことになります。いわゆる組織における出世競争である以上、構成員に優劣がつくのはしかたがありません。しかし、劣後するものからプライドまで奪う結果となると、どうでしょうか?
もはや、モチベーションは修正不可能なほど低下し、結果、事故の発生原因にもつながりかねません。
ここで大切なのは、彼らの現業に対するスキルを、管理能力や経営の能力とは切り離して適正に評価することです。たとえば、ある企業においては、ISO9000を導入した際に、業務手順の変更等については管理職ではなく、もっとも熟知した担当者の承認を要する、という規定を盛り込みました。この施策は担当者のモチベーションをあげるとともに、管理職と担当者とのコミュニケーションをも増やす結果ともなっています。
また、別の企業では業務ごとにマイスター制度を取り入れ、その業務に従事するための社内資格制度を創設し、現業従事者の士気を高めることに成功しています。どちらの制度も給与制度は一切変更していません。決裁権や称号というプライドを認める仕掛けを人事政策に反映させることにより、モチベーションの維持・向上を果たした好例であるといえるでしょう。
Aスキルを承継するための教育訓練具体例
特定の業務に長く携わっていた人には、その業務に対する専門的知識・人脈・手法など、有形無形を問わず多くのスキルを有しています。このスキルの集積は、組織にとってはかけがえのない財産となります。通常、組織においては、OJTや業務マニュアルの作成によって、スキルの承継が図られます。しかし、構成員間のコミュニケーション能力やマニュアルへの表現力の問題などがあり、表層的な部分しか伝わらない場合が多く見受けられます。
ここでは、初任者向け研修「ヒヤリ・ハット事例の要因分析と対策構築」の結果を用いて、スキルの承継を目指す研修の具体例を紹介します。用意するものは、初任者向け研修でヒヤリ・ハット事例を記載したカード、白紙カード(人数×10枚程度)、サインペン(人数分)、模造紙(チーム数×3)です。この研修は、下表の手順により実施します。