ISO14001情報ステーション
ISO14001実務研究室

点検の実務

1.監視及び測定の実践

ISO14001:2004規格は、環境マネジメントシステムの運用に際して、排水の水質検査・産業廃棄物の排出量の把握・電力使用量の把握など著しい環境影響を与える可能性のある運用のかぎ(鍵)となる特性を定常的に監視及び測定するための手順を確立し、運営することを求めています(4.5.1監視及び測定)。これらの監視・測定の結果は、記録として管理されることにより、組織が向かう環境目的・目標の達成度をはかる指標の一つとなります。

結果が芳しくない場合等は、内部監査等において不適合の指摘を受けることになりますが、その前に担当部門において原因の分析を実施することが重要です。あからさまな法令違反は別として、環境マネジメントシステム上の不適合を恐れてはいけません。速やかに原因を特定し、適切な対策を講じれば結果は改善されるはずです。先ほど解説した4M-4EマトリックスやSHELモデルを用いた分析結果には、やみくもな要求とは異なり説得力がありますから、結果として特定の資源やスキルが必要であることが判明したならば、経営判断を仰ぐよい機会にもなります。

2.順守評価の手法

(1)順法の社会的要請の背景

法的要求事項の順守は、環境マネジメントシステムの適合・不適合以前の問題として、組織が取り組まなければならないものであるといえます。かつては、ISO14001の審査に際しても法令管理台帳を有していればあまり深く追求されることはありませんでしたが、ISO14001:2004への規格改訂に伴い、順法体制の強化が明確に打ち出されました。4.3.2法的及びその他の要求事項では、環境側面への適用と環境マネジメントシステムへの考慮が求められたこと、4.5.2順守評価が独立した項番として設定されたことが、その証です。また、環境法令に限らず、2006年5月から施行された会社法でも、内部統制の規定が強化され、大会社においては取締役の役割として法令遵守のためのシステム設計が規定されるなど、コンプライアンスの姿勢は社会的にも強く要請されているところでもあります。

このような順法強化の社会的要請が強まってきた背景には、相次ぐ企業不祥事があげられます。税法違反、労働基準法違反、粉飾決算、偽装表示などの企業不祥事が新聞やテレビのニュースで報道されない日はほとんどありません。それは中小零細企業だけではなく、日本を代表する大企業をも含めた問題となっています。

なぜ、企業は社会を揺るがすような不祥事を起こすのでしょうか? その理由は3つに大別できます。
第1は、法令に対する知識不足です。どこまでが法の範囲内なのか、その理解に欠けているがゆえに違反を起こしてしまうケースです。

第2は、確信犯的なもの。コスト削減や納期厳守などを優先させるため、違反と知りつつも法を犯してしまうケースで、昨今、巷を騒がしているマンションの構造設計書の改ざん事件などが典型的な例といえます。

第3は、違法状態にあることを知りつつ、それを隠蔽してしまうケースです。いわば違反の上塗りで、ここまでくると同情の余地はまったくありません。いくら組織のためであっても、法も社会もそれを許すことはありません。

昨今、コンプライアンス経営が提唱されていますが、その理由は、上記のような経営リスクを未然に回避すること、あるいは生じてしまった経営リスクを軽減することにあります。どのケースの背景に起因する不祥事であれ、一度法令違反をした以上、法による処罰を受けることとなりますし、さらには消費者による不買運動などの社会的制裁も加わり、企業のブランドイメージは大きく傷つくことを覚悟しなければなりません。最悪の場合にはマーケットからの退場を宣告されることもありえるでしょう。
つまり、コンプライアンス経営は、予防的性質と事後対応的性質によって形成されているといえます。この点を踏まえると、コンプライアンス経営の目的は、不祥事を未然に防ぐこと及びブランドイメージの低下を軽減させることにより、自社の業績悪化を食い止め、株主代表訴訟などの経営リスクをヘッジすることとなります。環境マネジメントシステムにおける法令順守は、その性質上、コンプライアンス経営の一翼を担うものですので、組織の規模によっては両者を統合させて作成したほうが効果的であるといえます。

(2)順守評価は、予防法務と事後対応の起点

ISO14001:2004規格における法的要求事項の順守評価も、予防的性質と事後対応的性質によって形成されていなければなりません。評価の結果だけをもって一喜一憂するのではなく、法令を熟知し、実務とマッチングさせ、それを組織的に共有するという予防法務と、発生した不祥事を自ら調査し、その結果を自発的に発表してブランドイメージ低下を軽減させるという事後対応の起点となるような順守評価の手順が求められているのです。

起点になる、とは、順守状況の評価に終始するのではなく、順守のための活動とその結果の両方について評価を実施するということです。法令順守のためには、その前段階にあたる法令の制定・改廃情報の収集・整理・分析が適切になされていることが不可欠です。改正されていることを知らずに、「(改正前の規定に照らして)適合している」と評価したところで何の意味もありません。前段階の調査と行動の結果が一致して、はじめて適正な順守評価となるのです。それゆえ、4.5.2順守評価において、「適用可能な法的要求事項の順守を定期的に評価する」と記述されている「定期的」が、年に1回では効果的であるといえないことは明らかです。
法の制定から施行までの期間を考慮すれば、少なくとも四半期に一度は、前段階である法令の制定・改廃情報の収集・整理・分析が適切になされているかを評価し、その結果を実務に反映させていくことが肝要であるといえるでしょう。

法令情報の収集に際しては、無料のサービスがいくつかあります。たとえば、法令(法律・政令・省令・告示)は制定されると必ず官報(日刊/一部136円・税込)に掲載されます(一定期間分の官報は無料閲覧可能)。しかし、「○○を△△に改める」という改め文で掲載された官報から、必要とする情報を探しだすにはそれなりの知識が必要となります。

また、電子政府の総合窓口では、法令データ検索システムが無料で提供されています。こちらは官報とは異なり、改正後の本文が閲覧できるので便利ですが、制定・改廃後掲載されるのに時間差があるため、至急のときにはやや心細い感じがします。また、改正後の条文をみるだけでは、どこが改正されたのか特定することが容易にはできません。
一方、環境省のホームページにおいて、最新の改正情報が国会提出資料や報道資料とともに提供されておりますので、これらの情報を組合わせて活用できるようにするとよいでしょう。

法令管理を適正に実施するには、人的なコストがかかります。法務部を有するような大規模な組織は別として、中小規模の組織が環境マネジメントシステムを構築・運営する際に、この点が最大の課題であるといっても過言ではありません。組織の将来を考えれば、法令管理能力に長けた人材を育成することは、とても有意義であるといえます。しかし、適正な法令管理能力を育成するには、それなりの時間を要しますので、予算的な余裕があれば組織の実状のあわせて有料のサービス・商品を選択するのも効果的であると思います。

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(3)順守評価のポイント

届出に関する規定は、法的要求事項の洗い出しのときに、いつ、誰が、誰に、何を届け出るのか、有効期間はいつまでか、などの項目をチェックリスト化しておくと漏れがありません。一方、契約は私的自治の原則から、本来自由な行為であるのですが、たとえば、廃棄物処理法などのように公法において厳格に規定されているものがよく問題となります。届出や契約に関する不適合の原因で多く見受けられるのは、管理者の異動に際して十分な引継ぎがなされていない例です。管理者が作成する引継書に、法的要求事項の順守に関する事項を設けておけば、このような不適合を未然に防止するのに役立ちます。

(4)組織が同意するその他の要求事項

その他の要求事項では、自治体との協定、顧客との合意、組織が属する業界団体の指針、地域との合意などがあります。ステークホルダーとの約束事は、相対的な規制ではありますが、約束したからには法令以上に順守を求められます。これらの順守事項については、その状況について相手方に適切に説明をすることを忘れてはなりません。先方から求められて回答するのではなく、自ら先んじて報告をすることが肝要です。外部コミュニケーションの実施を決定した組織であれば、その一環として組織が同意するその他の要求事項の報告についての項目を定めておくとよいでしょう。

3.不適合時の是正処置及び予防処置

(1)不適合の定義

不適合を管理するためには、まず不適合の定義を明確にしておく必要があります。
一般的には、法規制からの逸脱(可能性を含む)、目標値の未達(可能性を含む)、手順書内容の不履行などがあげられます。目標値については、「未達状態が3か月継続したときは不適合とする」というような定義も見受けられますが、排出・放出・排水など、環境への負荷をテーマとする目標などの場合、このような一律的な定義付けに馴染まず、注意が必要です。

また、決定された不適合の定義は、組織の構成員すべてが正確に把握しておく必要があります。不適合の定義は、いわば環境マネジメントシステム運営上のルールでもあるわけですから、プレイヤーである組織の構成員が熟知していないのでは、適正な運営が成り立ちません。内部監査等において、はじめて不適合の定義がわかったなどというようでは、システム自体に問題があるということになってしまいます。そのような状況を避けるためには、不適合の原因特定方法とあわせて、不適合の定義の習得を教育研修カリキュラムの一つとして組み込んでおくとよいでしょう。

(2)不適合の原因の特定

基本的に緊急事態・事故の原因特定方法と同じです。4M-4EマトリックやSHELモデルなどの手法を用いて分析を実施します。その際、不適合と判定された場合はもちろん、その兆しがみえはじめたものについても早めに原因を特定することが肝要です。潜在的な不適合の原因を特定しないまま放置しておくと、重大な法令違反や事故に繋がる可能性が高く危険です。
何度も言うように事故は確率現象ですから、測定・監視の段階で不適合の兆しを発見し、この時点でその芽を摘んでおけば、発生の確率を相当低くすることができます。 →緊急事態への準備及び対応

(3)是正処置とは?

是正処置とは、生じてしまった不適合に対して、その状況を緩和させる措置をとること、及びその原因を特定し再発を防止する措置をとることを言います。ISO14001:2004規格においては、是正処置をとった場合にはその結果を記録すること及び有効性を検証することが求められています。一定の期間が経過しても有効性が認められなければ、その処置自体に問題があることになりますので、結果の記録に立ち返って、再発防止策を講じる必要があります。

軽微な不適合の場合、是正処置の有効性について検証されることなく、同じ結果記録が積み重ねられていくことがよくあります。環境マネジメントシステムを順守し、きちんと結果記録を残していく姿勢はよいのですが、これでは無駄な作業を積み上げているに過ぎません。もっとも大切なのは、不適合の原因を排除することです。たとえ軽微なものであれ、何度も続けて不適合が生じているということは、何らかの決定的な瑕疵が存在しているはずです。こうした瑕疵をそのままにしておくと、いずれ他の要素と結びつくことによって重大な事故の原因となってしまいます。たとえば、現在生じている不適合の根本的な瑕疵が、設備の軽微な不具合であったとします。その設備の操業担当者のスキルが高い場合は、軽微な不適合が時々生じている程度で収まっていますが、未熟な担当者が登場した場合はどうでしょうか? 判断ミスなどの要因と設備の軽微な不具合とが重なれば、一気に大事故へ発展する可能性が高くなることは、明らかでしょう。

(4)予防処置とは?

予防処置とは、まだ生じていない不適合を未然に防止するための処置を施すことです。たとえば、排出・放出・排水などの記録が基準値から遠いレベルで安定していたのに徐々に基準値に近づきはじめた、などというときにその原因を特定し、原因を排除することなどが予防処置にあたります。

予防処置においては、まだ顕在化していない不適合の要素を発見することが重要となります。そのためには、毎月の記録を読む力を養う必要があります。不適合は顕在化していなくとも、その姿の一端をどこかにあらわすものです。前述したような単純な例だけでなく、ある月は数値が高くある月は低い、という現象が繰り返しあらわれるような場合にも、何か原因があるかも知れません。

記録の読解力をつけるためには、第一に、常に記録を気にかけることです。なぜ、そのような数値になったのか、担当者の状況はどうであったか、設備はどうであったか、原材料などに変化はなかったか、などというように考える癖をつけるとよいでしょう。第二に、過去の記録を調べることです。前月はどうであったのか、四半期前はどうであったのか、1年前はどうであったのか、それぞれ該当する記録と比較し、何か原因となるものはないか考えてみることが重要です。第三に、考えた理由を議論することです。担当者だけで考えるのではなく、直接・間接にかかわる者全体で議論することにより、さらに深い原因が特定できる可能性が高まります。

結果には必ず原因があります。逆にいえば、原因があれば、いつか結果が生じることになります。記録を読む力を養うとことによって、結果が生じる前に原因を取り除く、それが予防処置に求められていることであるといえるでしょう。

記録から読む不適合

4.継続的改善のための記録の管理方法

(1)記録を読むためには、言葉の共通理解が必要

記録は、組織外部に向けては、説明責任の材料となるとともに、組織内部においては、環境マネジメントシステムを継続的に改善させていくためのもっとも有効なツールとなります。しかし、その有効性を担保するためには、組織内において共通化されていなければならないルールが存在します。まず、大前提として、記録に記載される用語や基準が正しく理解されている必要があります。なんとなくわかっている、特定の部門・部署だけで使用されている、というのではせっかくの記録も役にたちません。記録内容の正確性同様、言葉の正確性についても組織内の共有化が重要です。

記録を読むためには言葉の共通理解が必要

(2)記録の有効な読み方

記録は、その読み方次第で様々な情報を提供してくれます。記録を記載した者の意思の有無にかかわらず、記録が蓄積されることにより、新たな意味が生じるのです。しかし、記録のほうからは呼びかけてはくれません。記録を眺めながら、読み手自身がその意義を読み解かなければならないのです。ここでは、有効な記録の読み方についていくつかふれてみたいと思います。

@時系列に読む

記録は時系列に読むことにより、改善へのステップを可視的なものとすることができます。まず、可能な限り過去に遡って、数値に関連する記録を時系列にグラフ化してみます。

グラフが毎年同じ時期に同じような変化をしていれば、その時期あるいはその前にどのようなことがあったのか、調査をしてみます。たとえば、ある組織では、紙の使用量が毎年8月から10月にかけて増加する傾向が見受けられました。調査をしてみると、11月が新事業年度の開始月であるため、どの部署でも事業計画素案やその資料の作成のために普段より多くのコピーをとっていることがわかりました。この組織では、その後、意識的に毎年8月から10月の紙の使用管理を強化することにより、紙の消費量を減量することに成功したそうです。

また、ある時期をさかいに、不適合とまではいかないまでも、それまでの倍近い数値が続くようになったとすれば、その転換期に何があったのかを調査します。設備・原材料・管理方法・担当者など、何かかわった要素が必ず見つかるはずです。要素が見つかれば、その原因を特定し予防処置をとることで不適合を未然に防ぐことが可能となります。

A部署ごとに読む

同じ調査項目については、部署ごとの数値を並べてみることにより、組織のバランス状態を知ることができます。たとえば、ある部署では余裕で基準をクリアしているのに、ある部署ではスレスレの状態が続いている場合、両者間にはバランスを欠く何らかの要因が存在するはずです。業務内容に比べて構成員が少ない、構成員が若手に偏っている、本来必要とされる物的資源が十分に配分されていない、などの要素がみつかれば、どのようにそのギャップを解消していくのが組織バランス上もっともよいか、検討します。

資源の配分決定はトップマネジメントの役割ですので、この検討結果は内部監査の折(緊急であれば直ちに管理責任者)に報告します。この報告結果を受け、最終的な判断をトップマネジメントが下すことにより、環境マネジメントシステム及び経営全体が改善されていくことになります。

ここで重要なのは、自部門・部署の記録だけを読むのではなく、組織全体の記録を気にかけることです。記録は自らは何も語りかけてくれません。しかし、読み方によっては実に雄弁に改善のヒントを物語ってくれます。そのため記録は組織全体でアクセスできるように管理されていることが前提となります。ISO14001:2004規格においても、「記録の識別、保管、保護、検索、保管期間及び廃棄についての手順を確立し、実施し、維持すること(4.5.4 記録の管理)」が求められています。

ISO14001:2004における記録の意味

5.内部監査の手法

(1)ISO14001:2004における内部監査とは? 継続的改善の糸口を見出す共同作業

(a)監査とは

監査とは、ある基準が満たされている程度を判定するために、証拠を収集し、それを客観的に評価することをいいます。たとえば、自治体には地方自治法の規定により監査委員が置かれ、自治体の財務に関する事務の執行や経営に関する事業の管理について監査することとされています。また、株式会社には、会社法によって監査役(会)・会計参与などの機関が設置され、取締役の職務執行や計算書類について監査を実施することとなっています。組織は、監査によってその業務や会計の正当性を証明することになります。それゆえ、監査にあたる人には確かな知識・公平性・独立性が求めらることになります。

ISO14001:2004が規格として要求している内部監査は、環境マネジメントシステム自体に関する監査です。しかし、内部監査はスケジュールから内容まですべてを組織が独自に策定できますので、継続的改善を視野に入れるならば、環境順法監査や環境パフォーマンス監査も組み込むことが重要となります。法令順守と環境側面の管理は、環境マネジメントシステム運営の中心となるものですから、定期的な監査の実施によってその有効性を確認することが求められているといえます。

監査名 監査内容 基準
環境マネジメントシステム監査 ISO14001:2004規格や組織の環境管理マニュアルを基準として、規格要求事項への適合・システムの構築・運営状況などの確認を中心に実施 □ISO14001:2004規格
□組織の環境管理マニュアル
環境順法監査 法規制の順守状況・順守する仕組の有効性の確認を中心に実施 □法的及びその他の要求事項登録表
□順守評価の手順書
□順守評価結果
環境パフォーマンス監査 環境影響の改善状況・改善する仕組及び維持状況・維持管理する仕組の有効性を中心に確認 □環境目的・目標実施計画書
□各種手順書
□パフォーマンス記録
(b)内部監査員

内部監査における監査員は、監査を実施するにふさわしい能力を有しているならば組織内部の人材でも、外部の専門家に依頼しても構いません。外部の専門家は監査技法に優れていますが、組織の詳細な業務には精通していません。
一方、組織内部の監査員は、環境側面に関する知識は十分に有していますが、監査の知識や技法については、外部の専門家には劣ることが多いといえます。
可能であるならば、認証前後の期間は外部の専門家に依頼して(ただし、監査チームには内部の人材を入れるように交渉する)、内部の人材が監査知識や技法のスキルを獲得した段階で内部のみで実施するように変更していくとよいと思います。もっとも、監査は監査内容の正当性の証明でもあるわけですから、外部専門家に依頼し続けることにも意義はあります。

監査員に求められるのは専門性だけではなく、公平性・独立性も必要となります。内部の人材を監査員とする場合、監査室や監査事務局など組織構成上独立した機関に監査員が所属していることが重要です。
しかし、よほど大規模な組織でないと、予算的に難しいい面があることも事実です。附属書Aではこの点に配慮して、「中小規模の組織では、監査員の独立性は、監査員が監査の対象となる活動に関する責任を負っていないことで実証することができる」と記述されています。この場合でも、監査はチームで実施するものですから、複数人の監査員が必要となることはかわりありません。
特に、中小規模の組織では現業を抱えつつ、監査を実行していくことになりますから、きちんとした計画をたて、構成員すべてが監査員となれるよう教育訓練を施していくことが組織戦略上重要です。

また、自組織の監査員による監査の場合、監査される側との関係が監査に影響することのないよう配慮が不可欠です。監査員は検事や弁護士ではありませんから、監査に際し何ら特権などは有していません。逆に、被監査者である部門長は通常の職務執行ではないのですから、監査員に対して命令権限はありません。つまり、両者はあくまで対等の関係にあることを組織内で共通理解しておくことが大切です。「監査」というと、監査側も被監査側もいらぬ緊張をすることが往々にしてありますが、継続的改善のための糸口を見出すための共同作業である、と認識することが大切です。

<JIS Q 19011品質及び/又は環境マネジメントシステム監査のための指針(7.2個人的特質)>
倫理的である 公正である、信用できる、誠実である、正直である、そして分別がある。
心が広い 別の考え方又は視点を進んで考慮する
外交的である 目的を達成するように人と上手に接する。
観察力がある 物理的な周囲の状況及び活動を積極的に意識する。
知覚が鋭い 状況を直感的に認知し、理解できる。
適応性がある 異なる状況に容易に合わせる。
粘り強い 根気があり、目的の達成に集中する。
決断力がある 論理的な思考及び分析に基づいて、時宜を得た結論に到達する。
自立的である 他人と効果的なやりとりをしながらも独立して行動し、役割を果たす 。
<JIS Q 19011品質及び/又は環境マネジメントシステム監査のための指針(7.3.1知識及び技能、7.3.4環境マネジメントシステム監査員に特有の知識及び技能)>
監査の原則、手順及び技能

□監査の原則、手順及び技法を適用する

□効果的に作業を計画し、必要な手配をする

□合意した日程内で監査を行う

□重要事項を優先し、重点的に取り組む

□効果的な面談、聞き取り、観察、並びに文書、記録及びデータの調査によって、情報を収集する

□監査のためにサンプリング技法をしようすることの適切性及びそれによる結果を理解する

□収集した情報の正確さを検証する

□監査所見及び監査結論の根拠とするために、監査証拠が十分かつ適切であることを確認する

□監査所見及び監査結論の信頼性に影響し得る要因を評価する

□監査活動を記録するために作業文書を使う

□監査報告書を作成する

□情報の機密及びセキュリティを維持する

□自分の語学力で、又は通訳を介して、効果的に意思の疎通を図る

監査の原則、手順及び技能

□さまざまな組織へのマネジメントシステムの適用

□マネジメントシステムの構成要素間の相互作用

□監査基準として用いる、品質若しくは環境マネジメントシステム規格、適用される手順、又はその他のマネジメントシステム文書

□基準文書間の相違及び基準文書の優先順位の認識

□文書、データ及び記録の、承認、セキュリティ、配付及び管理のための、情報システム及び情報技術

組織の状況

□組織の規模、構造、機能及び相互関係

□一般的な業務プロセス及び関連用語

□被監査者の文化的及び社会的慣習

法律、規制及びその他の要求事項

□地方、地域及び国家の、基準、法律及び規制

□契約及び協定

□国際条約及び国際協定

□組織が同意しているその他の要求事項

環境マネジメントの方法及び手法

□環境用語

□環境マネジメントの原則及びその適用

□環境マネジメントツール(例えば、環境側面/環境影響評価、ライフサイクルアセスメント、環境パフォーマンス評価など)

環境科学及び環境技術法

□環境に対する人間の活動の影響

□生態系の相互作用

□環境媒体(例えば、大気、水、土地)

□天然資源の管理(例えば、化石燃料、水、動植物相)

□環境保全の一般的方法

運用の技術的側面及び環境側面

□業界特有の用語

□環境側面及び環境影響

□環境側面の著しさを評価する手法

□運用プロセス、製品及びサービスの重要な特性

□監視及び測定の技法

□汚染の予防技術

(2)内部監査の目的

監査という言葉には、不正や不備を暴く、糾弾する、というような厳格なイメージがあります。しかし、内部監査は、不正や不備が起こらないようにシステムを改善することを目的として実施するものです。
人間が構築し、運用する限り100%完璧な環境マネジメントシステムなど存在しません。事故が確率現象であるように、不適合も確率現象であるからです。また、不適合の原因は一つとは限りません。たまたま不適合を受けたとしても、その本当の原因は経営自体にある、ということも多くあります。不適合の数に一喜一憂するようなことは、監査をする側も受ける側にとっても無意味なことで、見つけだされた不適合を継続的改善に活用することを考えることが重要なのです。不適合を恐れる背景には、たとえば、業務評価が低くなるのではないか、という疑念があります。このような疑念を払拭し、本来の内部監査の目的を達成するために、「不適合と本来の業務評価とは原則として異なる」ということを、トップマネジメントが明確にしておくことが重要です。

一方、マンネリ化した内部監査も問題です。うわべだけの数字合わせに終始し、システム改善に向けての本質的な問題解決にはふれようともしない言わば年中行事としての内部監査であるならば、実施するだけ時間とコストの無駄であるといわざるを得ません。内部監査の目的は何であるのか、組織全体でその共通理解をもつことが、継続的改善へ向けての第一歩であると思います。

ISO14001:2004規格では、「監査の結果に関する情報を経営層に提供すること(4.5.5b)」、も求められています。ここで重要なことは、ありのままの結果を報告するということです。何度も繰り返しますが、不適合を恐れてはいけません。不適合は重大な事故発生への警鐘であり、回避のための重要なサインなのです。監査員は、発見された不適合の原因がどこにあるのか、その部門・部署だけの問題ととらえずに、より大きな視野で考えてみる必要があります。そのためには、これまで学んできた4M-4EマトリックスやSHEL分析などの手法を駆使して、組織全体の記録を読み解いていかねばなりません。

また、報告を受けたトップマネジメントも報告結果を冷静に分析することが求められます。特に、資源・役割・権限の分配はトップマネジメントの責任において行われるものですから、それらの施策に不備はないか丁寧に検討する必要があります。

内部監査の目的とは
効果的ではない内部監査

(3)監査プログラム

監査プログラムとは、簡単にいえば年間の監査計画です。環境マネジメントシステムにおいては、環境マネジメントシステム監査・環境順法監査・環境パフォーマンス監査の類型があります。これらの監査をいつ、何のために、どの範囲を対象として、実施するか、を定めたものが監査プログラムとなります。
プログラム設計は、組織の自由裁量に委ねられておりますが、サーベイランスや更新審査を視野に入れて策定することが基本となります。

監査プログラムの例

  監査実施
計画
監査の目的・範囲 システム上の作業 行事
6月 認証・登録     通常国会閉幕
地方議会
7月   順法監査の計画作成
□記録・文書類の収集
□監査用チェックリストの作成
法令情報・条例情報を収集し、「法的及びその他の要求事項登録表」を改訂。組織内へ伝達。  
8月 順法監査 【目的】
法令の制定・改廃情報の収集・整理・分析状況の浸透度
【範囲】
全部署
   
9月     不適合の改善及び改善報告 地方議会
10月   パフォーマンス監査の計画作成
□記録・文書類の収集
□監査用チェックリストの作成
条例情報の収集  
11月 パフォーマンス監査 【目的】
環境パフォーマンスに焦点をあてたシステム運用状況
【範囲】
関連部署
   
12月     不適合の改善及び改善報告 地方議会
1月   システム監査の計画作成
□記録・文書類の収集
□監査用チェックリストの作成
条例情報の収集 通常国会召集
2月
3月
システム監査 【目的】
システム全体の運用状況調査。
※順法監査、パフォーマンス監査も合わせて実施する。
【範囲】
全部署
  地方議会
4月   サーベイランスに向け、記録・文書類の整備・点検 不適合の改善及び改善報告  
5月 サーベイランス   条例情報の収集  
6月       地方議会
7月     条例情報の収集  

(4)効果的な内部監査の手法

(a)事前準備

各監査については、選抜された監査チームが監査目的にそった監査計画を策定するところから始まります。
監査チームはリーダーを中心に、情報・資料の収集を行います。効果的な内部監査を実施するためには、この事前の準備が不可欠です。むしろ、事前準備こそがすべてといってもよいかも知れません。

収集する必要がある情報・資料は、記録・文書類(過去の監査結果と変更点を含む)と社会的トレンド(法政策動向、国際動向、社会的事件・事故など)です。前者は主に不適合の芽を、後者はシステムの発展的改善の芽を見出すために必要となります。
収集した記録・文書類は、記録の有効な読み方で紹介したように時系列や部署ごとに読解していきます。うまく運営されている点、懸念される点など、気がついたことは些細なことでもすべて書き出していきます。このとき、白紙のカードをたくさん用意し、気がついた点は一枚のカードに1点ずつ記入していくようにします。
すべての記録・文書類の読解が終了したら、カードの整理を行います。カードはまず部署ごとにまとめて各部署のかかえる問題点、よい点を整理します。次に、カードを工程ごとにまとめ直し、部署間の繋ぎやモノの流れのなかに問題点がないか確認します。このようにして洗い出された課題を、潜在的なリスクや不適合の芽となりそうなもの、すでに不適合となっているものにランク分けします。ランク分け後、可能な限り4M-4EマトリックスやSHEL分析によって、それぞれの課題を分析します。この段階では、分析結果中に事実と予測が混在しても構いません。ただし、両者は色分けなどにより明確に区別しておく必要があります。

一方、社会的トレンドは環境目的・目標へ位置づける可能性があるかを検討します。このとき、環境側面調査に立ち返って検討するとよいと思います。関連しそうな商品・サービス、設備などを洗い出し、関連する部署をマークしておきます。そして、監査時に実施する管理者へのインタビューにおいて、その可能性を聞き出します。
このようにして、事前に運用上問題となりそうな事項などを洗い出しておくことにより、監査本番での調査事項が明確となるとともに、時間を有効に活用することが可能となります。また、監査チームなりの原因の分析を実施することにより、不適合の芽の根本的な原因の究明へと繋げていくのです。

(b)監査計画の策定

次に、具体的な監査のスケジュールを策定します。監査の日程はあらかじめ定められておりますから、チームリーダーはもっとも効率的なものとなるよう、監査の順序を確定していく必要があります。また、監査チームだけの都合ではなく、当日の来客予定や操業予定なども考慮に入れることも重要です。さらに、監査員の公平性・独立性を担保するために、各監査員の担当部分についても十分に留意することが不可欠です。
このように、効果的に作業を計画し必要な手配をすること、合意した日程で監査を実施すること、は監査員に求められる知識及び技能としても掲げられている事項です。
なお、作成された監査計画は、組織内で共有化されるよう管理責任者を通じて経営トップの決裁を得ます。その後、全組織に向けて監査計画について文書発信されることになります。環境順法監査や環境パフォーマンス監査のように、全組織を監査範囲としない場合であっても、監査計画を全組織で共有化することが大切です。監査中も通常業務は行われていますので、監査及び通常業務に支障をきたすことのないよう組織全体でスケジュールを把握しておく必要があるからです。

(c)チェックリストの作成

監査用のチェックリストは、事前準備の段階で抽出した諸課題をチェック項目に必ず含めて、部署ごとに作成します。作成に際しては、ノートを見開きに使用し、下図のようなイメージで構成するとよいと思います。
まず、監査の対象となるISO14001:2004の項番ごとにチェックポイントを書き出します。次に該当する事前調査結果を記入します。この事前調査結果の記述をもとにして具体的な質問項目と質問者を決定します。チェックリストには、監査当日のインタビューや気がついたことをメモできるスペースを空けておくと、監査終了後に監査報告をまとめる際に役立ます。また、チェックポイント ― 質問事項 ― 事前調査結果、を一覧できることにより、監査後の会議において論点を絞った議論を展開することが可能となり便利です。

内部監査チェックリストの作成例
効果的な内部監査
(d)監査の開始
<初回会議>

監査に入る前に、監査チームと被監査者は、これから実施する監査についてすり合わせ=初回会議を実施します。主な事項は、監査計画の確認・監査活動をどのように実施するかの要点の紹介・お互いの連絡窓口の確認・被監査者の質問の機会、です。 内部監査の場合、よほどの大規模な組織でない限り、監査員も被監査者もお互い見知った間柄ですから、あまり格式ばって考えることはありません。ただし、監査を効率的かつ公正に実施するためには、きちんとした距離を置くことが必要となります。

<現地監査>

初回会議が終了すると、いよいよ実際の監査に入ります。まず確認すべきは、「内部監査は、継続的改善のための糸口を見出すための共同作業である」ということです。
継続的改善の糸口は、不適合・不適合の芽・よい運営状況など、いろいろあります。これらの糸口を見出すために、監査員は事前調査及び監査時の観察をもとに、様々な材料=証拠を収集します。現地監査における主な証拠は、インタビュー及び観察結果です。
インタビューはチェックリストをもとに実施します。ここで一番大切なことは、インタビューの回答が監査員の意見と同じになるように誘導する質問のしかたは避ける、ということです。チェックリストには、監査員の事前調査結果が記載されていますから、ついつい自分の考えを押し付けたり、確認したりしたくなりがちですが、それでは正しい監査結果を導き出すことはできません。また、監査員は回答者に対して批判をしてはいけません。回答者の意見・見解をそのまま監査証拠として収集することが、監査員の重要な役割であるからです。
観察も客観的事実だけを拾い上げます。内部監査は、被監査者のあら探しをしたり、無理矢理不適合を見つけるためのものではありません。環境マネジメントシステムという目に見えないものを、客観的事実の集積によって浮かび上がらせ、欠けている部分や崩れそうな部分を見出し、その修復策を施す機会となるのが内部監査です。したがって、推測や予断による事実の歪曲は、誤った修復策を導いてしまいますので、絶対に行ってはなりません。
なお、部門長などの管理者へのインタビューは、所属員へのインタビューがすべて終了してから実施します。まず、管理者の立場から現状について確認してもらい、所属員へのインタビュー結果や事前調査結果と齟齬があれば、客観的事実としてどうなのかを、検討します。このとき、管理者は自分の認識と事実とが異なり不適合となったとしても、その結果をおそれてはいけません。むしろ、監査員が収集した様々な証拠をもとに、原因の特定について考慮すべきです。監査員は、事前調査で行った分析結果があれば、それを提示し参考としてもらうとよいでしょう。

<チーム会議>

内部監査終了後、チームリーダーを中心に、各監査員による監査結果の報告及び検討を行います。
まず、監査員はそれぞれ自分のチェックリストをもとに、組織全体の参考となる運営状況・不適合事項・不適合の芽となる事項・その他、気がついた事項を発表します。すべての報告が終わった段階で、1点1点議論をし、不適合等のランクわけを実施します。このとき、監査員は自分の意見をきちんと述べることが求められます。議論の決着を見ない場合は、チームリーダーが決定します。その決定には異論があっても各監査員は従わなければなりません。
会議の結果は不適合報告書に記載し、最終会議において被監査者に対して提示することになります。なお、不適合報告書には、不適合の事実・程度・証拠・基準を明確に記載します。

<最終会議>

不適合報告書の作成が完了したら、被監査者の代表者を交えて監査結果の報告会=最終会議を開催します。最終会議では、監査結果の概要・不適合の内容説明を行います。
不適合とされた事項については、被監査者の同意を得ることが必要となります。同意後、被監査者に対して是正処置要求と回答期限の確認を行います。このとき、不適合事項の緊急度、影響度などに鑑み、回答期限がそぐわないと思うときは、その変更を求めることが重要です。
監査チームは、当日の監査だけでなく環境マネジメントシステム全体の有効性を常に考慮して、監査後の日程を判断することが求められます。

効果的な内部監査の例2
効果的な内部監査の例3
(e)監査結果の報告

ISO14001:2004規格は、「監査の結果に関する情報を経営層に提供する(4.5.5 b 内部監査)」ことを求めています。報告に際しては、「監査報告書」という文書による形式が多く用いられています。記載すべき主な事項は、実施日・監査員名・被監査部署・基準文書・監査結果概要・是正処置提出期限・フォローアップ監査計画・チームリーダーのコメントなどです。「監査報告書」はマネジメントレビューの重要な材料となりますので、記載にあたっては経営者の視点で考えることが重要です。
なお、不適合事項において緊急を要する事項については、「不適合報告書」「監査報告書」の流れとは別に、管理責任者を経由して、直ちに経営トップへ伝えられる必要があることはいうまでもありません。

6.内部監査員資料

ダウンロードサービス

「内部監査員チェックリスト」と「環境側面別チェックリスト」の無料ダウンロードサービスです。環境マネジメントシステムの内部監査にご利用ください。

内部監査チェックリスト(kansa_cl.zip)

環境側面別チェックリスト(envi_cl.zip)

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